** 居場所 ** /
50のお題・10
私の部屋に、ネコがくる。
青い目をしたそれは、いつの間にか住み着いてしまった。
「いいにおい」
ソファに寝転がってうたた寝していたはずなのに、いつの間にか私にすり寄ってくる。後ろから抱き込んで、私の肩越しにグツグツと音を立てて煮込まれている鍋に興味津々の様子。
「もう少しで出来るけど、そっちで待ってれば?」
「うん」
口から出たのは肯定の返事なのに、身体は思いっきり否定していて離れる気配すら感じない。はっきり言って、重いしウザい。いつものことなので、動き難いのを我慢して料理の仕上げに取り掛かる。
「まだ?」
「まだよ」
「……まだ?」
「まーだ」
薬味のネギを刻んで器に盛って、今日の夕食がやっとで完成。待ってましたとばかりに、ちょこんといつもの席に着く。
「いただきまーす」
「どうぞ、召し上がれ」
それはそれは嬉しそうに、ごはんを平らげる。でも、慌てて食べるから、鍋の季節は舌を火傷することもしばしば。こうして好きな料理のときは残すことなく食べてくれるので、作る側としても嬉しいものだ。
「ごちそうさまでした」
「はい、どういたしまして」
食事の後は、まったり過ごすのが定番。
お互い好きなことをして過ごすのだけれど、同じことをしていることは少ない。折角一緒の時間を過ごしているのに、別なことをされるのは嫌じゃないの?
と前に友人に訊かれたことがある。そんなことは一度も感じたことがなかったので、そのとき、初めてこの関係を考えてみた。全く別なことをしていても、同じ空間にいて相手を感じられる微妙な距離に居られるのが心地いいのだと思う。
だからと言って、べったりされるのが嫌いなわけではない。
たまにする膝枕がすごく好き。自分では気付かないうちに、膝に乗った頭を撫でていたりする。硬そうに見える髪の毛が意外と柔らかくて、すうっと指をすり抜けていくその手触りが、気持ちいい。
「もっと、してよ。に撫でられるの気持ちいい」
眠そうに下から覗く目に弱い。そう催促されては、止められないではないか。
そんなこんなで、夜は更けてゆく。
私の部屋に、ネコが居る。
青い目をした愛しいそれは、私の心に住み着いて離れない。
終