** イタズラ ** /
50のお題・19
が夕食を作り終わり、エプロンを外しながらリビングへ目を向けると、真人はソファをベッドにして眠ってしまっていた。そういえば、ここ一週間仕事が忙しくて部屋に着いた途端ベッドへ直行していたとか。
余程疲れていたのだろう、いつもなら進んで何かしらを手伝おうとするのに、今日はそれがなかった。途中で起こしてしまっては可哀想な気もする。は真人が自然に目を覚ますまで待つことにした。食事は冷めてしまうだろうが、あとで温めればいいし、バースデーケーキはきちんと冷蔵庫の中に入れてある。
ブランケットを掛けてから、すうすうと寝息をたてる愛しい恋人の顔を覗き込む。
(っ、可愛い)
真人が聞いたら十中八九機嫌を損なうであろう形容詞だが、にとってはかなり使用頻度の高い言葉だ。直接口に出して言うことはないが、普段の真人の行動や仕草がやたらとのストライクゾーンを突いてくるのだから仕方がない。
(うわー、肌キレイ)
思わず指で真人の頬を突付く。
「きゃっ」
眠っていたはずの真人がその手を掴み、ぐい、と引き寄せた。
突然の出来事に成すがままのは、そのまま真人の胸に倒れ込む。
「ま、真人?」
「ん?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「……キスで起こしてくれると思ったんだけどなー」
真人は寝起き特有の舌足らずな口調で、少しばかり口を尖らせながら小さな抗議をする。はで、ほら、こんなところも可愛い、などと惚け気味で。
それでも自分の全体重が真人に掛かっていることに気付いて慌てて起き上がろうとするが、彼は腕の力を弱める気配がない。
「ご飯できてるわよ。冷めないうちに食べよ? ケーキもあるし」
「もう少し、このままがいい」
「私、重いでしょ?」
「全然。すんげー気持ちいい重さ」
「気持ちいい重さって?」
「を直接感じられて、安心する」
そんな嬉しいことを言われては、無理矢理起こす気にもなれないではないか。は真人の気が済むまで、このままでいる覚悟を決め、ゆっくりと目を閉じる。
二人だけの穏やかな時間。
お互いの距離も感じず、ただ心から愛している人が傍にいる、幸せ。
終