** ホリデーピンクの再会 **
「また、会えましたね。真人さん」
「良かった、俺のこと覚えていてくれて」
やっと、会えた。
偶然が二度も重なると、それは必然と呼べるのだろうか。
「えっと……少し話したいんだけど、いいかな?」
真人は照れくさそうに鼻の頭を掻きながら、を誘う。
は真人が目の前に居るということ自体未だに信じられないでいる。それなのに、彼は今、何と言ったのか?ストレートに誘ってくる真人には驚きを隠せない。真人にも聞こえているのではないかと思う程、心臓がバクバクと鳴っているのが自分でも解る。それでも、震える体を騙してやっとこさ声を出した。
「ええ、私もお話したいと思ってましたから」
心なしか頬を紅く染めて嬉しそうにしているに目を奪われつつ、真人は彼女から否定的なセリフが出てこなかったことを素直に喜び、自然と口元を緩ませた。
立ち話も何だからと二人は目的も無く歩き出した。自然と改札口とは反対側に足は向いているのだが、いつの間にか駅構内を出てしまい、冷たい外気を少しでも避けようと身を縮めて歩く。
二人とも緊張からかぽつりぽつりとしか会話が続かない。沈黙が始まる度にお互い気まずくなってしまい、焦りながら次の会話を探すので大した内容も無い話題が口から出てしまう。結果、会話が続かないという悪循環がしばらく続いているのである。
真人がこの状況をなんとか打破しようと、必死になっているときだった。
「ここで、真人さんに助けてもらったんですよね」
そこは一ヶ月前に真人がをナンパから救い出した場所であった。につられるようにして真人も立ち止まり、静かにゆっくりと動く大きなからくり時計を見上げる。
「たった一ヶ月前のことなのに、とても昔の出来事みたい」
からくり時計を見上げていた視線が、真っ直ぐ真人の方に向いた。
「私、ずっとあなたに会いたかったんですよ。だから、とてもこの一ヶ月は長く感じたのかもしれない」
「俺もずっと君に会いたかったんだ」
思い掛けない告白に、お互い目を見開く。一瞬の間が開いた後、ふっ、と先程までの緊張が一気に溶け出した。
「私たち、気が合いますね」
「ああ、本当にさ。それでもって、こうしてまたさんに会えるなんて、ラッキーだよな」
「ええ。お互い、名前しか知らなかったのにね」
何気なくの口から出た言葉は、真人の心を揺らす。『名前しか知らない』という事実はこの一ヶ月間、真人の心に重く圧し掛かり、時にはマイナス要因として酷く落ち込む原因にもなっていた。現に、この事実はスタンレーが呆れた程だ。
は真人が突然口篭もったのを不思議に思い、覗き込むようにして首を傾げる。
「真人さん?」
「……これから少しずつ知っていけばいいんじゃないかな」
「えっと、それって、お友達になりましょうってことですか?」
少々見当外れな応えにがっくりと項垂れる。それ以上のいい返事を期待してしまっていた自分が何だか恥ずかしい。それでも、気を取り直して先程とは打って変わって真剣な表情でを見つめ、自分を叱咤した。
(何を躊躇してるんだ、行け、俺!)
真人の心臓が高鳴る。
「さん!」
「は、はいっ!?」
真人はの両肩を掴み、自分の方を向かせる。
「好きです! 俺と付き合ってください!」
突然の告白には何が起きているのか、状況を把握できていないようだ。
勢いに任せて告白してしまった恥ずかしさからか、真人の顔が急激に紅く染まっていく。
真人から視線を外すことが出来ないでいるは、それを見て初めて自分が立たされている状況を理解した。今度はが真っ赤になっていく番である。返事をしたいのだが、上手く言葉が出てこない。
「……さん?」
「……っ」
「?」
「わ、私も真人さんのこと好きです」
「それじゃ」
「もちろんOK、です」
真人は返事を聞くなり、いきなりを抱き締めた。
道行く人々が、二人を冷やかす様にして通り過ぎて行く。
「あ、あのっ、真人さんっ……」
「うん」
「人が、見てるんですけど……っ」
「うん」
「……かなり恥ずかしいんですけど」
「うん」
「……真人さぁん」
は恥ずかしさの余り耳まで真っ赤に染め、真人の腕の中で小さく抗うが、完全に周りが見えていない真人は一向にその腕を解こうとしないのだった。
終
真人は自分が舞い上がっちゃってるとき、周りなんか見てないだろうな、と。
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