** クリスマス ** /
50のお題・42
(騙された……!)
女性同士だけでのクリスマスパーティーだと聞いていたのに、会場に居たのは自分を含めて男女五人ずつ、計十人。男女がテーブルを挟んで向かい合うように座っている光景は、ただの合コンにしか見えない。それとも、男性に見えているのは、実はごつい女性なのか。だったら女性同士ということになるので、騙されてはいないのだが。
しかし、男性五人のうちの一人によく知った顔があったので、その考えはすぐに打ち消されてしまった。
驚きを隠せずに暫し凝視していると、目が合った。
「ははは、やあ……」
向こうもの姿がここにあることに驚きを隠せないのか、一瞬目を見張ったものの、今度は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら小さく手を挙げた。
(……もう帰りたい)
クリスマスパーティー、もとい、合コンに自分の愛する恋人がいるなんて、どうすればいいんですか、神様、仏様、サンタ様。
自己紹介も無事に終わり、アルコールも適度に入って場が和んできたところを見計らって、 は席を立つ。それに便乗するように、同席していた同僚も彼女の後を追ってきた。
本当は一人になりたかったのだが、仕方がない。一緒に化粧室へと向かった。
同僚が鏡に向かってメイクを直しながら、に話しかけてくる。
「誰か気に入った男はいる?」
「そんなことより、女性だけのクリスマスパーティーって話だったじゃないの。どうしてこんなことになってるのよ」
「ごめんね、悪気はないのよ。ほら、みんな寂しいクリスマスを過ごすのは避けたいじゃない?」
「みんなって私も入ってるの?」
「、フリーでしょ。独り身ばかり集めたのよ」
「私は全然寂しくないです」
「もう、強がっちゃって。で、誰が本命?」
今日はもう諦めるしかない。
寂しいクリスマスを過ごす予定は全く無かったのだが、彼女が勘違いしているのも仕方がない。恋人がいることは、誰にも言っていないのだから。
誰にも知らせないのには訳がある。相手は軍の中では知らない人間はいない、無限真人なのだ。相手が相手なだけに、慎重になってしまった結果が今日の状況を作ってしまったのだと思うと、何だか滑稽に感じる。
「そういうあなたは気に入った人がいるの?」
「ふふふ、決まってるじゃない。真人しかいないでしょ」
「は?」
「まさか、も真人狙いじゃないでしょうね? 競争率高くて大変なのよ」
「“も”?」
「はどうだか判らないけど、みんな真人狙いよ」
これは正直に話した方がいいのか、それとも最後まで白を切り通すか。どちらをとっても後味が悪い思いをするだろう。真人の意見も訊きたいところなのだが。
「はーい、今度は私が王様よ!」
先程の同僚が手を挙げた。
合コンと言えば王様ゲーム。
一人でも乗り気でない者がいたり、罰ゲーム合戦になってしまうと白けてしまう、考えようによっては大変シビアなゲームである。
とんでもないことが起こりそうな前触れなのだろうか、終盤に近いというのに、未だには王様になることもできず、奇跡的に罰ゲームにも当たっていない。
しかも、罰ゲームは徐々にヒートアップしていく。
嫌な予感がするのは気のせいか。
「じゃあ、二番と五番、ポッキーゲーム!」
予感的中。
が手に持っていた割り箸には“5”と書いてあった。よりによって、ポッキーゲームとはツイていない。何が悲しくて恋人の前でポッキーゲームをしなくてはならないのか。せめて、相手が女性であることを祈りながら、仕方なく手を挙げる。
「私、五番です」
「……二番、俺」
少し間があった後、手を挙げたのは、真人であった。
『そうか、相手が真人であって欲しいって祈ればよかったのね』
『何の話だ?』
『こっちの話』
「はいはいはい、じゃあ、先に口を離した方が負けね」
人前でキス紛いのことをするのは避けたいところだが、こうなったら腹を括るしかない。相手が真人だということで、モチベーションを上げよう。
そろそろみんなも出来上がってきた頃だし、これをきっかけにしてお開きに持ち込むという手もある。何とかして、何も起きないうちに早く帰りたい。
がポッキーを口に咥えて、真人にどうぞと差し出す。
「ん」
「あ、ああ」
真人は照れながら、差し出されたポッキーを口に咥えると、スタートの声が掛かった。
少しずつ短くなっていくポッキー。当然、真人との距離も近くなっていく。ギャラリーも異様なほど盛り上がっている。
そろそろ限界かと思われるところで、は真人に肩を掴まれた。
「?」
驚いて口を離そうとした途端、真人が笑みを浮かべたような気がした。反射的に突っぱねようとするが、到底彼の力には叶わない。
一気に距離が縮まり、二人の間にあったポッキーは全て真人の口の中へと消え、完全に距離はゼロになった。
「んんんーっ、んんーーーっ!!」
必死に抵抗するも、段々とキスは深くなっていく。
甘いチョコレートとアルコールの香りが、ごちゃ混ぜになる。
「んっ、はぁ……んんっ」
頭の中が麻痺してしまいそうになる。立っていられなくなるほどの深くて甘いキスを真人から受けて、は抵抗する力もない。
やっと、真人が唇を離したときには、は放心状態で彼の腕の中に収まっていた。
周りの参加者たちが口々に真人とに向かって、何かを言っている。は彼らが何を言っているのか、全く耳に入っていないようだった。
収拾のつかない彼らに、真人が余裕の笑みを浮かべて言い放った。
「悪いな、はずっと前から俺のだ」
その後は、何が起こったのかよく覚えていない。そのまま真人に連れられて、店を出たのは覚えてはいるのだが。
『あいつらみんな狙いだったからな。ポッキーゲームなんてさせられっかよ』
あの時、本当に真人が二番を引いていたのかは、謎である。
終
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