** 秘密 ** / 50のお題・18



「え、今年はここでクリスマスパーティーなの?」
「ああ、くじ引きで決まった」
「もうっ、どうしてそういうこともっと早く言わないのよ」

  恒例になっているドルバック隊のクリスマスパーティー。去年はリーダーである真人の家が会場だったので、今年もそうだとばかり思い込んでいた。
  くじ引きで会場を決めていると言うのは初耳だが、決まったなら決まったで早いうちに教えて欲しかったと、は少しだけスタンレーを恨んだ。いつの間にやらスタンレーの部屋に増えていった私物を、自分の家に移動させなければならないのだから。
  元は殺風景だったこのリビングも、が持ち込んだ観葉植物やお気に入りの画家の絵、はたまたゲームセンターでゲットしたというぬいぐるみやらで殺風景どころか、すっかりの部屋と化している。観葉植物はそのままあったとしても意外ではない。しかし、流石に可愛らしい猫の絵やキャビネットの上にちょこんと居座るアンパンマンとバイキンマンを、スタンレーを知る人間が見たらひくこと間違いないだろう。
  リビングだけではない。バスルームには様々な入浴剤やボディミルク、洗面所には歯ブラシや化粧水まで置いてあるのだ。
  すでに夕食を済ませてまったり過ごす時間帯。クリスマスパーティーは明日だというから、急いで片付けなければならない。も明日は同僚たちとのクリスマスパーティーが待っているのだ。片付けに来る暇などない。
  はクローゼットからダッフルバッグを持ってくると、私物をその中へ放り込んでいく。

「何をしている」
「いや、私のものとか私ん家に運ぼうと思って」
「どうして?」
「どうしてって、皆ここに来るんでしょう?」
「だから、それがどうしてここにあるのものを運び出すことに結び付くんだ?」
「……いやいやいや、結び付くでしょう、普通」
「判らんな」

  本気で判っていないのだろうか。は逡巡してから困ったように眉尻を下げる。
  スタンレーと付き合い始めてかなりの時間が経つが、二人の仲を知る人間は多分いないだろう。スタンレーは自ら自分のことを話すタイプではないし、軍では有名な彼のこと、恋人ができたと知れればすぐに噂になるはずだ。そういった噂が耳に入ってこないという事実、それはつまり、自分たちの関係を知る人間がいないということ。

「色々と面倒でしょう?」
「何が」
「アンパンマンのぬいぐるみとか、洗面所の化粧水とか、見つかったら根掘り葉掘り問い詰められると思うんだけど」
「……ああ」

  スタンレーにしては珍しく反応が鈍い。

「ああ、じゃなくて。女がこの部屋に出入りしてることがばれたら、嫌でしょ?」
「どうしてそうなる」
「あのねぇ……。スタンに恋人がいるって皆に知られたら、あなたが困るんじゃないかな、と」
「……それは、の方だろう」
「私は別に困らないわよ。スタンが恋人だってばれたらしばらくの間は質問責めに遭うだろうけど、それは仕方ないことだし。あ、でも、ばれたら別れるとか言われると困るけどね」
「それは有り得ん」
「……あ、ありがと」

  さらっと照れるようなことを平然と言ってのけられ、は二の句も告げられずに顔を赤くしている。至って真面目な顔のスタンレーは、何故が急に黙ってしまったのか見当もつかないらしい。

「俺はてっきりが俺との関係を知られたくないのだとばかり思っていたんだがな」

  思い掛けない台詞に、どうしてそうなる、と今度はが質問する番だ。スタンレーがそういう素振りを見せないのは、周りにばれるのを嫌ったからだと思っていた。だからこそ、未だにスタンレーの関係を訊かれる度に『腐れ縁』と答えていたのに。
  が手に持ったままのダッフルバッグを、スタンレーは取り上げて無造作にフロアへと投げる。
  向かい合わせで立つスタンレーに、少しばかりの怒気を感じるのは気のせいだろうか。

「食堂で同僚たちに俺との関係を腐れ縁と答えていただろう?」
「……うん、聞いてたの?」
「何故本当のことを言わなかった?」

  気のせいではなく、明らかに怒っている。
  恋人の口から自分のことを『腐れ縁』と説明されて、多少なりとも凹まない人間はいないだろう。今さらながらそれに気付いて、は申し訳なさそうに俯いた。
  しかも、スタンレーはそれだけではなく、が『腐れ縁』と答えたことを別の意味に解釈して、二人の関係を黙するつもりだったのだ。
  結局はお互いがお互いのことを案じて生じた行き違いなのだろう。

「じゃあ訊くけど、スタンがそういう質問されたらどう答えるの?」
「恋人」
「うそ。だったらすぐに噂になるもの」
「そういう質問をしてくるヤツはいない」
「……うそでしょう」
「本当だ。訊かれたらきちんと答えるんだがな。が嫌がっていなければの話だが」

  スタンレーの言ったことは本当なのだ。
  スタンレー自身は普段と変わらずにと接している。しかし、端から見ている者は腐れ縁から恋人へと変化したことに気付かないのだ。そのスタンレーの微妙な変化はきっとにしか判るまい。だからこそ、改めてとの関係を訊いてくる者は誰一人としていなかった。
  火の無いところに煙は立たぬ、とは正にこのことだとはがっくり肩をおとす。顔を上げて苦笑いを浮かべると、す、とスタンレーの胸に頬をすり寄せ、腕を背中へと回した。

「……スタンらしいわ」
「不安にさせたか?」

  スタンレーはの小さな体を包み込むように、優しく抱き締める。

「ううん。私こそ、ごめんなさい。嫌な気持ちにさせてしまったでしょう」
「ああ、もういい」
「好きよ、スタン」

  少しだけ背中に回した腕に力を込めて、スタンレーの体温を感じる。
  スタンレーはそれを合図に、ゆっくりとの輪郭をなぞるように顔に掛かった髪を払い、額に、こめかみに、頬に唇を落としてゆく。

「判っている」

  そう耳元で囁くと、の体はぴくりと反応する。見る見るうちに真っ赤になってゆくの耳に、口元を緩め、スタンレーは彼女の唇を奪った。





「もうっ、どうして起こしてくれなかったのよ!」
「起こす必要はないだろう。もう朝なんだし」
「だから、昨夜のうちに起こしてもらわなくちゃ、片付けられないでしょうに」
「そのままでいい」

―――――ふりだしに戻る。





  結局、スタンレーに上手く丸め込まれたは、私物を片付けることなく、スタンレーの部屋から直接同僚たちとのパーティー会場へと駆けつける羽目になったのだった。





解り合っているつもりでも、言葉に出さなくちゃなにも解らないままなんだよ、というお話。
スタンの部屋にアンパンマンのぬいぐるみがあったら二度見しますよね。
え、しませんか?(笑)

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