** 隣 ** / 50のお題・23



  昨夜から降り続いた雪は止むことはなく、街を静かに白く染めていく。アッシュブロンドの髪にもうっすらと雪が積もるが、スタンレーは気にすることなく目的地へと足を運ぶ。きっと、バラの花束など抱えていたら、はまり過ぎてすれ違う誰もが振り向くだろう。しかし、スタンレーの手にはバラの花束などではなく、スーパーのレジ袋。右手のレジ袋からはサツマイモやタマネギなどの到底クリスマスとは程遠い食材、左手のレジ袋からは二リットルのミネラルウォーターが四本確認できる。かなりの重さだが、そんなことは微塵も感じさせないのは普段鍛えているからなのだろう。





  目的地へ着いたスタンレーは、ドアの前に立ち、インターホンのボタンを押す。暫くして、中からだるそうな声で返事が返ってくる。

「はーい、どちらさま?」
「俺だ」
「スタン!? な、何で?」
「いいから開けろ」
「う、うん」

  部屋の主であるはスタンレーが来ることなど予想していなかったのか、少し戸惑いがちにドアを開けた。スタンレーはの許可もとらず、上がるぞ、と勝手に部屋へ入る。慌てたのはだ。何せパジャマのままの姿で、しかも昨日から風呂にも入っていない。
  キッチンに両手の荷物を置いたスタンレーは、呆然と自分を見ているに気付くとため息混じりにベッドを指差して。

「寝てろ、酔っ払い」
「う……」
「どうせ朝方まで飲んでたんだろう」

  確かに、朝方まで同僚たちと飲んでいた。家に着いたのは時計は既に朝の六時をまわっていて、辛うじてパジャマに着替えたところまでは覚えている。正直言って、さっきのインターホンのベルで目が覚めたのだ。しかし、それを何故スタンレーが知っているのか。同僚たちとイブの日にクリスマスパーティーをするということは話したが、二日酔いになっているとは一言も言っていない。それとも、酔っ払ってメールでも入れたのか。そんなことを考えているのも、実はやっとだったりするのだが。

「……図星だな」
「ほっといてよ、……?」

  目の前がぐらつき、真っ直ぐ立っていられなくなったがバランスを失って倒れそうになるのを、スタンレーは寸でのところで受け止めた。

「ちょ、ちょっと、スタン?」

  スタンレーはを両腕で抱き上げると、ベッドへと運んで寝かせる。

「寝てろと言っただろう」
「……はい」

  お姫さま抱っこに観念したのか、は大人しくスタンレーの言うことに従うことにしたらしい。
  一方、スタンレーはキッチンに立って、何か作っているようだ。

(そういえば、両手にスーパーの袋下げてたな)

  目を開ければ天井が回る。治まってきた吐き気が再び襲ってこないように、は静かに目を閉じた。キッチンから聞こえてくる音が何とも心地いい。いつもなら逆の立場のスタンレーも、今の自分が感じている温かさを感じてくれているのだろうか。もしそうなら、素直に嬉しいことだと思う。

「風呂の準備が出来るまで、これでも飲んでいるといい」

  差し出されたのは、グラスになみなみ注がれた少し赤みがかった淡い黄色のドリンク。

「ありがと」

  ベッドから起き上がり、グラスを受け取る。食欲はなかったが喉は渇いていたので、有り難くそれを口に含む。搾りたてのグレープフルーツジュースだ。スーパーからここまでの距離でかなり冷やされたのか、氷が入っていないのに適度に冷えていて飲み易い。
  ちびちびと飲んでいるうちに、風呂の準備が出来たらしい。は抵抗する暇もなく、バスルームへと放り込まれる。バスタブには温めのお湯が張ってあり、ゆっくり入ってこいと言うスタンレーのお言葉に甘えることにした。
  三十分ほどバスタブに浸かっていると段々気分も良くなってきたので、一通り身体を洗うこともできて。風呂から上がってふと見た時計で、一時間半も風呂で過ごしたことを知る。その間、スタンレーを一人にしてしまったことを申し訳なく思うが、当の本人は普段と同じくソファを陣取って本を読んでいた。

「長湯しちゃった」
「ああ、気分はどうだ?」
「うん、大分良くなったわ。さっきまで世界がぐるぐる回ってたなんて信じられないくらいよ」

  ソファに座ったままのスタンレーの足元にぺたりと座る。
  スタンレーがの濡れた髪を、ひと房指に絡ませた。

「このままだと風邪ひくぞ」
「んー、それよりお腹が空いたわ」

  スタンレーは、全く、とため息をつくと、立ち上がってキッチンへと向かう。水でも持ってきてくれるのだろうと、はスタンレーが読んでいた本をぱらぱらとめくりながらスタンレーが戻るのを待った。
  トレイに乗せられたままテーブルに置かれたのは、今度は氷入りの水と、サツマイモと鶏肉のリゾットと野菜のコンソメスープ。は自分で作った記憶もないし、自分が風呂に入るまでは確かにこの部屋には無かったものばかり。そうなると、スタンレーが買ってきてくれたことになるのだが、さっき両手に持っていたレジ袋には、サツマイモなど、これらの材料が入っていたのを覚えている。とすると、この美味しそうな料理はスタンレーが作ったということになる。

「スタンが作ったの?」
「他に誰か作ってくれる奴でも居るのか?」
「居ません」
「なら黙って食べろよ」

  が風呂に入っている一時間半の間に、これだけ作れるなんて。風呂から上がったときに、スタンレーが読んでいた本のしおりの位置を考えると、もっと短い時間で作ることが出来たのだろう。手際の良さには驚くが、一人分しか運ばれていないのに気がついた。。

「スタンは食べないの?」
「俺はいい」
「一緒に食べようよ、折角二人で居るんだし、ね?」

  惚れた相手のみ有効な手段ではあるが、上目遣いでおねだりされては流石のスタンレーも頷くしかない。
  結局、二人で一緒に食べることになり。

「おいしい」
「そりゃ良かった」
「スタンにこんな特技があったなんて、知らなかったわ」

  どれも二日酔いの体には優しい料理で、味も中々いい。スタンレーは料理なんて絶対できないと思っていたのに、下手をすれば自分よりも上手なのではないかとは少し凹むが、スタンレーの初めての手料理を食べられることが嬉しくてたまらない。





「しかし、昨夜から酔っ払いの世話ばかりしているような気がしてならないな」
「昨夜から?」

  食事を終えた後、二人はソファで他愛もない話をしながら、暫く会えなかった時間を埋めていく。
  話を聞くと、ドルバック隊のクリスマスパーティーも凄まじいものがあったらしい。最後まで残ったのがスタンレーだったので、仕方なく世話をする羽目になってしまったのだと言う。先に眠ってしまった真人やルイに毛布を掛けてやったり、床に散乱するビンや空き缶を片付けたり。
  彼らと飲むときは、いつもより酒の量が増えることをは知っている。自分だってかなり飲んで酔っているのだから放っておけばいいのに、目の前の愛しのひとはクールな外見とは裏腹に、意外と律儀な性格だったりするのだ。

「で、今日はお前、ってわけだ」
「……はい、すみません、以後気をつけます」
「そのセリフは聞き飽きたな」

  この辛辣な一言で一体何人の人間が地の底に突き落とされたことだろう。
  それでも。は、自分が二日酔いで倒れているだろうと予想できるほど、スタンレーが自分のことを知ってくれているのだと思うと、思わず顔がにやけてしまう。

「二日酔いでおかしくなったか」
「失礼ね。スタンのこと、惚れ直してたのに」
「言葉じゃなくて、態度で示して欲しいね」
「もう、こういうときばっかり」

  は隣に座るスタンレーの頬を、両手で包み込むようにして自分の方へと向かせ、ゆっくりとスタンレーの額に口付けた。は自分からキスをするという行為がとてつもなく恥かしいのだが、スタンレーはが口付けた場所が気に入らなかったようで。左手で頬を包むの手を取り、右手はの後頭部を引き寄せる。が抵抗する間も与えずに、その唇を奪った。

「――っ! ……ス、スタンっ!」

  真っ赤な顔で不意打ちに抗議するだが、スタンレーは何処吹く風。

「別に、今更だろう」
「け、けどっ」
「不服なら、何度しても構わないが」
(!  しまった!)

  時既に遅く。
  片手をスタンレーに捕まれ、さっきまで後頭部を抑えていたスタンレーの右手はいつの間にかしっかりとの腰を引き寄せていて、がソファから逃亡を図るもあえなく失敗。は、口端を上げて微笑むスタンレーから逃れられないことを悟り。スタンレーは大人しくなったの唇に再び唇を重ねた。





スタンレーはそつなく何でもこなすんじゃないかというのが、私の勝手な妄想想像で。
だから簡単な料理なら出来るだろうと(笑)
でも、スタンレーにしては積極的だな…げふんっ

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