** 気付かない想い ・ スタンレー編 **



  結局、その日スタンレーにチョコレートを直接渡そうとした勇気ある女は十人程だが、全員玉砕(ルイは例外)。本気であろうが義理であろうが、ひとりも受け取ってもらうことはできなかったらしい。いや、義理で渡せるのは例外であるルイひとりであろう。本気だからこそ勇気を振り絞れるのだ。
  が、自室のドアの前に置かれていたり、どうやって置いたのかタルカスの操縦席に置いてあったり、受け取るしかないと判断されたチョコレートの数は有に二十個以上もあり、スタンレーをうんざりさせた。
  本来甘いものが苦手なスタンレーにとって、目の前に置かれたチョコレートは拷問以外の何者でもない。
  とりあえず、ルイからもらった義理チョコは後で何を言われるか分からないので食べておこうと決心し、現実逃避すべく、山積みにされたチョコレートを横目で見つつ夜の散歩へ出かけたのである。





「あ、スタン」

  スタンレーを『スタン』と呼ぶのはこのコマンドベースの中でひとりしかいない。

「……

  は入隊当時からの知り合いで、何故かスタンレーと同基地に転属されるのだ。優秀なオペレーターでもあり、誰とでもすぐに仲良くなれるは公私共に友人が多く、スタンレーと軽口を叩き合える数少ない女性なのである。
  ぱたぱたといつものように笑顔でスタンレーに近づいてくる。

「夜の散歩? 私も一緒していい?」

  断る理由もないので一緒に行くことにしたスタンレーは、小柄なに合わせるように歩調を緩める。
  そして、他愛もない話をしながらコマンドベースの周りを歩き、近くの公園まで足を運ぶ。軽く上着を羽織ってきたものの、流石に二月の夜は寒い。

くしゅんっ……。

  が小さなくしゃみをすると、当たり前のようにスタンレーが自分が着ていたジャケットを掛けてやる。

「い、いいよっ、私は大丈夫だからっ。それじゃスタンが風邪ひいちゃうっ」

  慌ててジャケットを返そうとするが少し怒ったような目線とかち合い、返すのを諦める。スタンレーがこういう目をするときは何を言っても無駄なのだと、は長い付き合いで知っているからである。彼の厚意を素直に受けることにしたはスタンレーの大きいジャケットを着込むと、何かを思いついたらしく、はぁーっ、と自分の手を息で温めた。そしていきなりスタンレーの手を取ると、温めた自分の手と一緒にジャケットの中に突っ込む。

「なっ……」
「えへへ、こうすれば少しはあったかいよね?」
「あ、ああ」

  少々呆気にとられるがの満面の笑顔に流されてしまう。これではまるで恋人同士ではないか、と気付いたときはすでに時遅く、引っ込みがつかなくなってしまった。スタンレーの隣りではがぼんっ、と顔を真っ赤にしている。同じことを考えていたようだ。
  そして、なんとなく交わす言葉が見つからなくてお互い口を閉ざしてしまい、しばしの沈黙が訪れる。それはとても居心地のいい空間で、やさしくふたりを包み込んだ。

ガサガサッ……

  茂みの方から何者かの気配がしたが特に気にも止めず、そのまま公園を出る。公園を出て散歩コースも終わりに近づいたそのとき。

「これ、スタンにあげるわ」

  が自分の上着のポケットから取り出したものを見て、スタンレーはあからさまに嫌な顔をした。
  それは綺麗にラッピングされた小さなもの。

「うわー、今すっごく嫌な顔したわね?」
「……してない」
「うそ。またかよ、って顔した」
「……」

  返答に困っているあたり、図星なのはすぐにわかった。は少し困った風な顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、スタンレーの前に立った。

「今日は沢山チョコレートをもらったみたいだけど、私のはみんなのとは違うわよ?」
「チョコレートはチョコレートだろう」
「そう言われちゃお終いなんだけどなぁ」

  苦笑いを浮かべたは仕方ない、とスタンレーのジャケットのポケットにそれを入れると、ジャケットを脱ぎ、スタンレーに渡す。

「それじゃ、宿題よ。私のチョコとみんなのチョコの違い。期限は一ヶ月。違いが解ったら何かスタンが欲しいものをプレゼントするわ。もし、解らなかったら罰ゲームね」

  そう言ってはスタンレーが返事をする前に、ジャケットありがとね、と手を振りながらコマンドベースへ走っていった。





「違い、ねぇ」

  自室に戻ったスタンレーはから渡された小さな包みを丁寧に開けた。中から出てきたのは手作りらしいウイスキーボンボンが五つ。しかもご丁寧に『義理』と大きくデコペンで書かれてあるではないか。ぷっ、と思わず吹き出してしまったほど、らしいといえばらしいチョコレートだ。
  ついついそのうちのひとつを口に入れる。口の中に広がるチョコレートの甘味とブランデーの苦味。味までそのもののような気がして、苦笑する。

「違いなんて解らなくてもいいさ」

  すっかりに乗せられていることに気付いたスタンレーは、甘んじて罰ゲームを受ける覚悟をした。
  しかしとのやりとりを楽しんでいる自分にまだ気付いてはいないのだった。





2004.2.28改訂。
とりあえず、夢部屋増設につき、小説部屋より移動しました。
…今更ながら、日本語じゃ「義理」って二文字だけど、
英語じゃ「Obligation」って長いんだよねー。あはは。

to HOMEto Dream TOP