** 気付かない想い ・ Introduction **


  二月十四日。
  誰がなんと言おうと、バレンタインデーである。心なしかみんなが浮き足立っているように見えるのは、多分気のせいではないだろう。男性陣はひとりきりの時間を何とか作ろうと必死だし、女性陣はチョコレートを渡すタイミングを必死で捜しているのだから。





「すっかり日本式のバレンタインに定着しちゃいましたよね」

  休憩室でお茶をすすりながら、スタンレーの隣りに座るジャッキーがつぶやいた。

「日本式?」
「あ、そうか、スタンレーさんは初めてなんですよね」

  スタンレーがコマンドベースに転属になってから初めてのバレンタインデーだった。ジャッキーが日本式のバレンタインデーは、女性が男性にチョコレートを渡して愛の告白をするのだ、と簡単に説明する。

「わざわざチョコレートを渡す必要はないと思うがね」
「あーら、それじゃこれは要らないってことかしら?」
「ルイ……」

  後ろを振り向くと、いつの間にかルイが可愛くラッピングされた小さな紙袋を人差し指にぶら下げながらにっこりと微笑んでいた。あなたの分も作ったのよ、と残念そうに口を尖らせる。

「渡す相手が違うだろう」
「わ、わかってますっ。もう、素直じゃないんだから。でも、ちゃんと受け取ってね。わかってると思うけど、義理チョコだからねっ!  はい、ジャッキーも!」

  『義理チョコ』の部分を強調しながら二人にチョコレートを渡すと、次があるからと、急ぎ足で休憩室を出て行く。同じ紙袋を持っていたところを見ると、次の相手は真人ではないらしい。素直じゃないのはどっちだよ、と残された二人に心の中で同時に突っ込まれているなど、本人は知る由もない。
  そして、ジャッキーから義理チョコと本気チョコについての説明を受けたスタンレーは無駄なイベントだなどとため息をつく。

「そうそう、忘れてましたけど、三月十四日のホワイトデーはチョコをもらった女の子にお返しする日なんですよ」
「はぁ?」
「お返しの品物はホワイトチョコとかクッキーとか色々な説がありますけどね」

  無駄なイベントのいわゆる決まりことにがっくりとうなだれるスタンレーであった。別にイベントが嫌いなわけではない。はっきり言って、要所要所のイベントはマメに対処する方である。ただ、今現在恋人と呼べる相手がいない状態でのイベント事には興味がないのだ。


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さて、初めての分岐小説(笑)
真人×ルイ編、スタンレー編(ドリーム)に分かれます。
いいんか、これで。