** 一泡 **
が異動になって半年。与えられた環境に対してすぐに適応できるだが、仕事の内容は特に大きい変化もないのですぐに慣れたものの、職場の雰囲気やら人間関係、ローカルルールに慣れるまでに一ヶ月近く掛かった。
この半年の間、スタンレーとのメールは片手で数える程、電話に関してはゼロだったが、それでも彼と連絡が取れていることが嬉しかったりする。それも、彼を知る人間にしてみれば、驚くこと間違いなしなのだが。
(今日は人事部のデータ入力しなくちゃならないんだっけ)
始業前に淹れた薄めのコーヒーを啜って、昨日のうちに与えられた仕事に手をつける。人事部の旧データを新データに書き換え、それを指示通りに振り分けるのが今日の主な仕事だ。
ディスクをセットして、デスクに向かう。
何度か小休憩を挟みながら、黙々と仕事をこなしてゆく。
(このペースだと今日中に終わりそうね)
処理済みのディスクと未処理のディスクを見比べて、仕事が終わるだろう大体の目安をつける。
丁度、の体内時計がもうすぐお昼だと告げた。
(もう少しでお昼かぁ。あ、やっぱり十二時十分前。すごいな、私の腹時計)
は正確な自分の体内時計に感嘆しつつ、午前のラストスパートとばかりに仕事に取り掛かった。
「ん?」
ふと、のキーを叩く指が止まる。ディスプレイに表示された名前に目が留まった。
『スタンレー・ヒルトン』
ここに名前が出てくると言うことは、今回異動になる人物と言うことことだ。同姓同名ということも有り得るので、は所属基地、所属部隊、階級など見間違えないようにゆっくり確認し、このデータの人物があのスタンレーだと確信する。
(あら、スタンってばここに異動になるんだわ)
再び会えるのが早くても一年後とか、下手をすれば会えないかもしれないと踏んでいたのに、半年で同基地に異動になるとは。
(早いとこ三ツ星レストラン探さなくちゃ)
仕事が終わったら本格的に探そうと心に決め、再び自分の仕事を始めようと姿勢を正す。午前中にはスタンレーのデータが書き換えられるはずだった。
「はぁ!? じ、十九歳!?」
生年月日から今度の誕生日で二十歳になるものの、スタンレーの年齢がまだ十代だと言うことに驚く。思わず声に出してしまったことで、周りの同僚たちの目線が一斉にに注がれたが、それを気にする余裕も無い。
(あれで十九なんて……これだから西洋人って……西洋人って……)
の目は何度も何度もディスプレイに表示されたスタンレーの年齢欄を確認する。しかし、何度見ても十九という表示は十九のままで。所属基地、所属部隊なども同じ同姓同名の別人かもしれないと考え直すが、以前スタンレーを捜し回ったときに『どっちのスタンレー?』と聞き返す人間はいなかった。ということは、やはりこの十九歳のスタンレーはあのスタンレーなのだ。
外見と年齢のギャップには慣れたと思っていただが、スタンレーのギャップにはただただ唖然とするしかない。
(あの落ち着きは詐欺だわ、詐欺)
別にスタンレーはを騙したわけではないのだが。
周りがざわついてきたところを見ると、十二時を過ぎたのだろう。休憩時間になったところで、は本人に確認する気になったのか携帯を取り出す。しかし、件名を入力してピタリと指を止めた。
(止めた。今度は『復習していないのか』なんて嫌味ったらしく言われそう)
以前スタンレーに、人を外見で判断するなと言われたことが頭を過ぎる。
「、お昼行かないの?」
同僚に肩を叩かれた拍子に、何かが吹っ切れた。スタンレーはスタンレー、年齢なんてどうでもいいではないか。
はほっと吐息をもらして、今行く、とPCの電源を落として席を立った。
終
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驚愕の事実発覚。スタン、19歳(笑)
ということで、まだまだ続きそうですよ、この長編。
というか、 の腹時計の正確さに乾杯。
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