** 経過 **



  イデリア星人との戦争は、地球に大きな傷跡を残したまま終結した。廃墟同然のままの都市、豊かであった耕地は荒れ果て、人々が以前のような生活に戻るには長く掛かると思われた。しかし、復興作業は地球規模で行われ、所々に戦争の面影を残すものの生活基盤は安定してきている。これなら、あと一年も経てば戦前、もしくはそれ以上の暮らしに戻ることが出来るだろう。





  ムゲン・キャリバーの調整が終わり、格納庫を出て行こうとした真人に声が掛かる。待って、と近づいてきたのは同じくオベロン・ガゼットの調整を終えたルイだった。

「真人、悪いけどこれ、情報分析部に持って行ってくれない?」

  ガゼット隊の緊急出動が入ったので、昼までに情報分析部に提出しなければならないデータを持って行って欲しいのだという。今から同じ用事でその情報分析部へ向かうつもりだったので、真人は快諾し、データの入ったディスクを受け取った。自分とルイがヴァリアブルマシンのデータを必要とされているのなら、きっとスタンレーも同じようにタルカスのデータを取っているはず。どうせなら一緒に持って行ってやろうと辺りを見渡すが、勤勉な同僚の姿は何処にもなく、ちぇっ、と誰にも聞こえないように舌打ちをして、真人は格納庫を出たのだった。
  長い廊下を抜け、何度かコーナーを曲がり、エレベーターで上へと昇る。エレベーターを降りてからまた少し歩くことになるのだが、最後のコーナーを曲がったときに衝撃を受けた。

「きゃっ」
「っと……」

  人にぶつかってしまったらしい。ぶつかった相手は衝撃を受け止められず、つんのめりながら派手に転んでしまった。真人は相手が女性だと判ると慌てて手を差し出し、相手を起こしてやる。彼女は転んでしまったことに対して恥ずかしいのか少し顔を紅く染めながら、ありがとうございます、と真人の手を取って立ち上がった。

「悪い、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。すみません、怪我しませんでしたか?」
「俺は大丈夫だけどさ、君は怪我ない?」
「はい」

  軍には珍しく小柄で、誰が見てもアジア系。ネームプレートを盗み見て、真人は思わず声を掛けた。

「君、日系人?」
「いいえ、生まれも育ちも国籍も日本ですよ」
「へえ、俺もなんだ。あ、俺、無限真人。よろしくな」

  人懐っこい笑顔を向けながら、真人は手を差し出す。少しも躊躇することなく目の前の彼女は求められた握手に応じて、真人以上の笑顔を浮かべて自らを名乗った。

です。こちらこそ、よろしくお願いします』

  日本語で挨拶されただけで何故か気を許したような安心感に包まれるのは、長年英語だけで会話してきた故の反動だろうか。何時片時もサングラスを外したことのない厳しい上司と交わす他愛ない日常会話でさえ、英語である。コマンドベースがここ日本支部にあり、自分がそこへ配置され続ける限り、基地から一歩外へ出てしまえば、日本語は溢れ返っているはずなのだが。

『情報分析部のオペレーターなんだ?』
『ええ、昨日付けでイギリス支部から異動になったんです』
『俺はここ長いからさ、何かあったら遠慮なく訊いてくれよ』
『ありがとう、そう言ってもらえると助かります』

  お互い打ち解けあったところで、二人の目的地であった情報分析部の重厚な自動ドアが開くと中から見知った人物が出てきた。

「何だ、スタンレー、先に来てたのか」
「お前より先に仕事が済んだだけだ」

  探したんだぜ、と口を尖らす真人をいつものように往なすと、スタンレーは真人の後ろに佇むに気付いて軽く目を見張った。で、突然のスタンレーの登場に驚いた様子で、大きな目を益々大きくして彼をじっと見つめている。その二人の様子に全く気付かず、真人はスタンレーの紹介を始めた。

「俺の同僚で、スタンレー。少々陰気臭いけど、根はいいヤツだから」
「……どうも」
「どうも、ってそれだけかよ」
(陰気臭いって……。それよりスタン、何か怒ってない?)

  軽く挨拶を済ませると、何事もなかったようにスタンレーは真人たちが来た廊下を辿って二人の前から姿を消した。
  呆気に取られながら、は恐る恐る真人に尋ねる。

『彼、いつもああなの?』
『まあな。もうちょっと愛想良くてもいいんだけどな。気、悪くしたか?』
『う、ううん。少し驚いただけ』
『ごめんな』
『無限さんが謝ることないわ』

  真人はの表情が曇ったことに多少の罪悪感を感じたのか、自分が悪いわけでもないのに謝罪の言葉をかけた。当然、真人に謝る理由がないと知っているは、逆に真人に対して申し訳ない気持ちになる。苦笑いを浮かべて、しゅんと小さくなっている真人に入室を促す。

『っと、やべっ、提出時間過ぎちまうぜ。ひー、ルイにどやされる』

  わたわたとIDカードをカードリーダーに通すと、ドアが開いた。続けてがカードを通して中へと入る。

『それじゃ、また』
『あ、そうそう、俺のことは真人でいいからな』

  にかっ、と少年のような笑みでひらひらと手を振る真人に、も笑顔で応えた。とは仲良くなれる気がする。そう直感した真人がそれを実感するのはそう遠くない未来のこと。
  一方、人好きのする新たな友人が一人増えたことに喜びを感じながらも、スタンレーの態度が気に掛かって仕方ないだった。




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あれ? これって真人夢?(笑)
真人って「異性」を意識しない限り、接し方変わらないような気がします。

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