** 余韻 **



  喉の渇きで目が覚めた。薄暗い部屋の様子から、まだ夜が明けきっていないことが伺える。はベッドからのろのろと立ち上がって、キッチンへと向かう。冷蔵庫から麦茶を出して、コップへと注ぎ、それを一気に飲み干した。

(昨夜飲み過ぎたかな……)

  はぁ、と息を吐いて、空になったコップに再び麦茶を注いで寝室へ戻る。ベッドに座って、ちびちびと喉を潤す。

(どうもスタンと二人きりだとペースが崩れちゃうのよね)

  自分のアルコールの限界は知っているつもりだ。次の日が休日ではない限り、その限界を超えて飲むようなことはしない。しかし、何故か彼と二人きりで飲みに出掛けると、ついつい飲み過ぎてしまうのだ。

(でも、ちゃんと歩けてたよね、うん)

  記憶がきちんと繋がっているかどうか不安になって、居酒屋を出てからの足取りを思い出してみる。

(しばらく歩いて、コンビニに寄って……やなヤツに会ったわ)

  思い出しただけでもムカムカする。もう二度と会うことはないと思っていた。会ったとしても、まさか向こうから声を掛けてくるとは思っていなかったし、あんなことを切り出してくるなんて、考えもつかないことだった。また騙せると思われているのかと、自分が情けなくなったと同時に、相手にどうしようもない怒りが込み上げてきて、泣いてしまったのを覚えている。

(うわー、スタンの前で泣いたんだっけ)

  がっくりと項垂れる。酔っていたとはいえ、いきなり路上で女に泣かれるなど端迷惑でしかない。その時、彼はどんな顔をしていただろう、と心配になる。

「……ん?」

  ゴトッ、とコップが手から離れ、麦茶が床を濡らした。

(ちょっ、待て待て待てっ、あの後、スタン、何した?)

  一部始終を思い出して、一気に体温が上昇する。かぁーっと耳まで熱くなるのが判った。
  抱き寄せられ、普段のスタンレーからは想像できないような優しい声で慰められたかと思ったら、次は涙を唇で―――。

「ひぇーっ」

  あまりの恥ずかしさにどうにかなってしまいそうだ。
  ベッドに倒れ込んで、誰も見ていないのに真っ赤になった顔を両腕で隠す。

(えーっと。私も酔ってたけど、スタンも相当飲んでたから絶対酔ってたよね。いや、でもスタンがお酒に酔って虎になることなんて無いし……。それより! 別に、く、口にキスされたわけじゃないし、あれくらいは挨拶、そう! 挨拶よ。だから何もそんなに恥ずかしがることないのよ、って、落ち着け、私)

  結局、昨夜の出来事はスタンレーの予想していた通り、お互い酒に酔った末の失態と結論付けられた。しかも、彼のストレートな愛情表現もただの挨拶に擦り替えられ。
  いつもののように落ち着いて冷静に考えれば、スタンレーが何とも思っていない相手にあんなことなどするはずが無いと簡単に判るはずなのだが。

(……こんなに恥ずかしい思いするなら、記憶をなくしてた方が良かったような)

  二度と酒に飲まれまいと堅く心に誓うであった。




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酔って記憶をなくすより、恥ずかしくてもしっかり記憶していた方が良いと思うんですが。
私だけですか。

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