** 夏の憂鬱 / 中編 **


  午後からの仕事はほとんど手につかなかった。それでもなんとか、午後の仕事を無事に終えたルイは、思いつめた顔で廊下を歩いていく。

「ルイさん!」

  後ろからジャッキーが駆け足でやってくる。

「明日、海水浴に行きますよね?」

  まっすぐな瞳が間違いなく『Yes』という返事が返ってくることを期待している。一瞬戸惑ったものの、まだ決めていない、と本当のことを話した。それでもめげずジャッキーはルイを誘い続け、ルイも必死で誘ってくれるジャッキーを無視できない。

「どうして迷ってるんですか?僕でよかったら相談にのりますけど」
「……ジャッキー」
「僕じゃダメですよね、ははは」

  少しだけがっかりしたようなジャッキーの顔を見て罪の意識を感じたのか、ルイは意を決したように顔を上げた。

「そんなことないわ、ちょっと来てくれる?」

  がしっ、とジャッキーの右の手首を掴み、早足気味に自室へと向かう。引き摺られるようにルイの部屋に入ったジャッキーは、ソファーに座りじっとルイの行動を見つめている。ルイはクローゼットの中からなにやらごそごそと取り出し、ジャッキーの目の前に差し出すと、真剣な顔でこう訊いた。

「水着、これしかないのっ! どう思う?」
「どうって……」

  差し出されたのは一着の水着だった。色は鮮やかなローズピンクで、トップはホルターネック、ボトムはベルトチーフがついているセパレーツタイプの水着。ジャッキーは突然のことに目を丸くしたまま、どう返答すべきか言葉を探している。

「やっぱり、派手よね? この間友達と買いに行ってね、ワンピースにするつもりだったの。でも、友達がこっちの方がいいよ、って。ちょっと派手だと思ったんだけど、ついのせられて買っちゃったのよーっ、どうしよう、ジャッキー」

  ルイは今まで押し黙っていた分、一気に言いたいことをまくし立てた。つまり、ルイが海水浴を渋る理由はこうである。
  『水着が派手で恥ずかしいから』
  それにプラスαで『真人に変に思われないか心配』というのも付け加えられるはずなのだ。年上でいつも冷静で、真人やピエールの無茶を場を壊さずにストップできる唯一のメンバーであり、ジャッキーにはしっかりしたお姉さんのイメージで定着している。が、ついジャッキーはそんなルイを思わずかわいいと思った。

「思っているほど派手じゃないですし、絶対ルイさんに似合うと思うなー」
「そうかしら、本当に派手じゃない?」
「本当ですよ、大丈夫、自信持ってください!」
「うん、わかったわ、ジャッキーがそう言うんなら、信じる」

  いつも正直なジャッキーが大丈夫だと言うのだから、信じてみようという気になってしまう。それに、不思議と自信が湧いてきた。実際、海に行くのは嫌いではないのだから。昨夜、海へ行きたいと話していたのは確かな事実だ。しかし、ルイにとって海へ行くということは、趣味であるウインドサーフィンやスキューバダイビングをしに行くということであって、決して海水浴ではないのである。ウインドサーフィンもスキューバダイビングも海水浴とは決定的な違いがある。そう、前者は水着を着なくてもいいのだ。全身ウエットスーツで肌の露出は極力少なくて済む。その点、海水浴ともなると水着なしで済むはずもなく、案外恥ずかしがり屋のルイにとって水着を着ることは、真人が同行者でなくてもかなり勇気が要ることなのだ。いくら普段着でタンクトップにホットパンツを着ていて、肌の露出はそんなに変わらないとしても、である。

「じゃあ、明日の海水浴に行くんですよねっ?」
「ええ、一緒に行きましょう」
「やったーっっ! それじゃ、真人さんたちにも知らせてきます」

  勢いよく部屋のドアを開け、うれしそうに出て行こうとするジャッキーをルイが慌てて捕まえた。

「このこと、みんなには内緒よ?」

  一応、クギはしっかりさしておくしっかりもののルイである。


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謝っておいてよかった…やっぱり前中後編になってしまいました。
しかも、もう秋だし(爆)
今回はジャッキーが大活躍です(笑)
アニメの中でも彼は、いい感じに真人とルイの仲をフォローしてくれるしね。
後編は冬かっ?!


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